Ananda Yoga

ヨガと香り|ヨガインストラクター養成エッセイ

ヨガと香りについて

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ヨガと香り 〜心の安定に繋がる香りの活用〜

はじめに

ラージャヨガにおいてパタンジャリが「ヨガとは、心の作用を止滅(制御・コントロール)すること」と定義しているように、ヨガを学び実践していく上で「心」は非常に重要な要素であり、心が安定した状態を作り上げ維持していくことが、結果的に自己そして他者の幸せにも繋がっていくと考えられています。

しかしながら、実際にこの心の安定状態を実現することはなかなか難しいと日々感じています。

特に日本のような忙しない社会の中で生活していると、自分の意思とは無関係に瞬間的・無意識に動く心を感じる瞬間が度々あります。

そうした心の動きに気付くことこそがヨガの本質であるということをYTT100の講義の中で学びましたが、今回はその「気付き」を最も本質的なベースとしながらも、サポート的な役割として他の何かの力を借りることで、より安定した心の状態を実現することができないだろうかという観点から、以前学んだことのある「香り」という要素を取り入れてみてはどうかと思い立ち、本テーマを選択するに至りました。


香りの伝達メカニズム及び心身への作用

人は日常、実に多種多様な香りを嗅いでおり、その数、普通に1週間生活するだけで約2000種類以上とも言われています。

香りを最初にキャッチするのは鼻(嗅覚)ですが、その後どのような流れで我々の体の中に伝わっていくのでしょうか。

まずはその伝達メカニズムについて取り上げていきます。

鼻から入った香り成分は嗅神経を通って嗅球という脳の入り口に到達し、そこから大脳辺縁系という大脳の内側部分へと伝達されます。(イラスト図1参照)

大脳辺縁系は「感じる脳」とも呼ばれ、人間のより本能的な行動(食欲や睡眠欲、記憶や情動など)を司っています。 美味しそうな匂いを嗅いでお腹が鳴る、良い香りで幸せな気持ちになる、逆に嫌な香りで不快になる、香りを通じてふと過去の出来事を思い出す―こうした現象は、香りが大脳辺縁系に直接的に働きかけていることに起因します。

また大脳辺縁系には視床下部という自律神経の中枢と呼ばれる組織と、そのすぐ下には下垂体というホルモン調節組織があります。(イラスト図2参照)

いずれも人間の体の恒常性を保つために不可欠な組織ですが、実は香りはこれら2つの組織にも伝達され、心身のバランス調整に影響を及ぼしていると考えられています。実際に以前私自身が仕事でストレスフルな生活を送っていた頃、お風呂の入浴剤の香りに大変癒され、塞ぎ込みがちだった気持ちが随分と楽になったことがあり、その際にも香りがもたらす作用を強く体感した経験があります。


【イラスト図1:香りの伝達経路】



【イラスト図2:視床下部と下垂体】


※ 出典元:いずれも「アロマテラピーの教科書(和田 文緒著)」より



ヨガへの活用(瞑想)

次に、具体的にこの香りをヨガへ活用するにあたり、私が提案したいのが瞑想への活用です。

というのも瞑想時はアーサナを行っている時よりも心のコントロールが難しく、心が動的になりやすいことから、香りを取り入れることによる変化をより捉えやすいのではないかと考えたためです。方法としては精油(植物の色々な部位から抽出された揮発性の芳香物質。できれば100%天然の高品質なものが良い。)を専用のポットやランプなどに数滴たらし、仄かに香らせるというものです。

多種多様な精油がありますが、香りの作用がそれぞれ異なることから、今回はその中でもより瞑想の目的に適したものとして3種類を選びました。

@ サンダルウッド                          
インド原産の高木。(とりわけ南インドのマイソール地方のものが最も上質とされています。)木の中心部である心材から抽出されます。和名は「白檀」で、日本でもお香や扇子の香りとして親しまれています。スモーキーさと若干の甘さを併せ持つ香りで、心を落ち着ける鎮静作用に加え、浮き立った気持ちを留め、地に足をつけてくれるような作用があると言われています。古くからインドでは宗教儀式などに用いられてきました。またアーユルヴェーダにおいても重要な植物として位置付けられ、活用されています。

A フランキンセンス                          
ソマリアなどが原産の高木。樹脂から抽出されます。サンダルウッド同様神聖な意味合いが強い精油で、古代エジプトでは儀式の際の薫香として重宝されていました。またミイラの防腐処理としても使われていたそうです。すっきりした中にも重みのある特徴的な香りを放ちます。呼吸を深め、心の波を静めて集中力を引き上げる作用があると言われています。

B パチュリ                             
インドネシアなど東南アジア原産の多年草植物で、葉より抽出されます。オリエンタル調のどっしりした香りで、畳のい草の香りにも似ています。緊張や不安状態を和らげる作用があり、あれこれ考えすぎてしまう頭の思考を一旦リセットしたい時に役立つと考えられています。また、過度な食欲の調整にも良いとされています。

実際に試してみた感想

それでは本当に香りを取り入れることによって、本当に心の安定度は変わってくるのか?

前述の精油の内、サンダルウッドとフランキンセンスの2種類をブレンドしたものを香らせ瞑想を行い、通常の瞑想と比べてどれくらい呼吸への意識向けがスムーズにできたか、集中できたかを検証してみました。

あくまで個人的な感覚に基づいての検証ということもあり完全に客観性を伴った結果とは言えませんが、それでも香りを通じて呼吸がよりゆったりと安定的に行えたという実感があり、通常時よりも集中力を切らさずに取り組むことができたように思います。

いつもは時間の経過が比較的長く感じられることが多いのですが、今回はあっという間に時間が過ぎていきました。


まとめ

ヨガの訓練においてとりわけ困難で苦手意識さえ感じていた心へのアプローチを、香りの力を借りることで少しでも行いやすくならないだろうか、そう考えたのが本エッセイの出発点でしたが、調べれば調べるほど香りというものは思っていた以上に奥が深く、ヨガと上手く組み合わせることで良い相乗効果が得られるのではという期待が強まりました。

ただ、やはり最終的には自分自身の力で心を制御することが本来の到達すべき目標であるため、香りという要素に全面的に頼り切ってしまうのではなく、今の自分ではどうしても及ばない部分を少しだけ支えてもらう存在として活用していければと考えています。

Ananda Yogaにてヨガの勉強をはじめてから1年が経過しました。まだまだ未熟で至らなさを感じる日々ではありますが、身体面・精神面双方において着実に良い変化があり、ヨガを学び始める以前よりもより穏やかに前向きに生活を送れるようになりました。これからもヨガの学びと実践を続けると共に、ヨガインストラクターとしても経験を積み、精進していきたいと思います。


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